江古田っていう街は、なんだか不思議なところ。
下北沢とか高円寺とか、それらの街に感じる濃ゆさをもう少しライトにした感じもある。
久しぶりに行った下北沢は激安古着屋さんが増えてたのはさておき、ガールズバーばっかりの街になってた。
高円寺はなんか、確かにいい街なんだろうなって感じがするけど、あの濃ゆいカルチャーの感じが僕には少し合わなくて。
もう少し放っておいてほしい感じがある。穏やかであってほしい。
江古田は、濃ゆいカルチャーを感じるかと言われれば、まあ感じるっちゃ感じるかなって感じ。
足を踏み入れれば、面白いお店はいっぱいあるんだろう。
ただ、1人でズケズケと色んなお店に入っていくような度胸のあるタイプじゃない。
だから、あんまり色んなお店に行ったりする訳じゃないけど。
知り合いだったり、奥さんとどっかにご飯でも食べに行こうよ、ってなったときには、なんだか江古田まで行くことが多い。
あの街の、どこかゆるっと自由で、のびのびした雰囲気がなんだか好きで。
下北沢や高円寺みたいに古着屋さんがあったりする訳でもない。でも、ココナッツディスクはあったりして。
なんだろう。まあ、程よく居心地がよくて、何かカルチャーを押し付けられるような感覚もなくて。
古くからの雰囲気が残ってたり。街ゆく人たちのそれぞれがそれぞれの人生をしゃきっと生きているから、人のことをあんまり気にしてくていいような。
のびのびした空気がなんだか好きな街、江古田。
駅前に煌々と鎮座する江古田の名店 “江古田コンパ”
そんな江古田駅の踏切前に煌々と君臨するこの街の名店、江古田コンパ。
ひときわ目立つライトに、ひと目で歴史を感じるその看板。
この街に古くからあるお店、その正体はバーであることは知ってたけど、なかなか足を踏み入れる機会ときっかけがなくて。
もう何度もお店の前を通っても、店内に入ることはなかった。
調べたことがなかったから営業時間も把握してなかったけど、その日も奥さんと別のお店で飲んで帰ろうとした頃、0時近かったと思うけどライトが光ってた。
江古田で0時を過ぎても営業してるお店っていうのはそこそこ珍しい。
その日はなんだか、煌々と輝くライトに惹かれて、お店の階段を登ってみたのだった。
色とりどりのカクテルが豊富に揃うカラフルで魔訶不思議な店内
いざ店内に足を踏み入れてみると、思ってたよりも奥行きがあって広かった。
店内は左右にバーカウンターみたいなのがあって、お客さんがたくさんいるときはその両方を解放しているのだろう。
僕らも数組いた他のお客さんに並んで、入って左側のカウンターに案内された。
かなり豊富な種類のカクテルが用意されていて、ライトで照らされた色とりどりのそれらは非常にカラフルで独特の存在感を放っていた。
お店のシステムとして、食べ物は1人1品以上のオーダーが必要とのこと。
とはいえ軽くつまめるそれらは1品500円くらいだったので、レーズンバターと鮭とばをオーダー。
カクテルメニューはとにかく色々あって。
僕はカクテルって本当に全然知らないんだけど、いわゆるHUBとかでも聞いたことがあるようなメニューもあった。
そしてそれと並ぶのは、それもそのはず、他では聞いたことのない江古田コンパのオリジナルカクテルとのこと。
色々とユニークな名前のカクテルが並んでるけど「所さん」って名前のカクテルはその名の通り、所ジョージさんが番組でお店へ来たときに作ったものとのこと。
ちょっと酔ってたから何を頼んだかは覚えてないけど、とりあえずお店のオリジナルカクテルで、店員さんおすすめのそれを1杯頼んだ気がする。
店員さんは、その日は3人。オーナーの男性と、いかにもキャラクターの強い白髪パーマの女性と、黒髪ロングの女性店員さん。
お店のことは前々から知っていて、もちろんその外観から気になって調べてたけど、あの白髪パーマの女性こそ、Xのヘッダーになっていた方だ、と一致した。
お店を訪れた色んな人が”名物店員さん”と書いていた方こそ、あの方なんだろう。
僕らのカクテルを作ってくれたのは、黒髪ロングの女性店員さん。初めて来た僕らにもお店のことを丁寧に説明してくれた。
目の前でシェイカーを振って作ってくれたカクテルは、甘さもありつつスッと飲みやすいものだった。
度数はある程度強かったのかもしれないけど、それをあまり感じさせないような飲みやすさ。
鮭とばをつまみながら、店員さんの話を聞きながら、スッと飲めてしまう。
外観から、もっとカオスでうるさい感じのお店を想像したけど、いざ店内に入ってみるとけっこう居心地がよくて。
壁には店主さんが書いたという絵の数々。独特の世界観がありつつ、僕はなんだかそれらの絵がとても好きだった。
あと、妙に居心地が良いと思った大きな理由は、カウンターのお客さん側がまるで柔らかく、肘置き用のソファのように (?) なっていたところ。
幅のあるカウンターに肘をついて身を乗り出すも、その肘を置く部分がまるでクッションのようになっているから腕が疲れない。
薄暗いけどカラフルで、少しだけ存在感のある音楽のかかる店内はその全部が絶妙なバランスで調和していて、空間としてとても魅力的。
こういう肘置きのようなクッションが付いたカウンターを作ったのもオーナーさんだという。
お客さんのいない後ろのカウンターで片付けをしながら、静かに店内を見守るオーナーさん。
来る人を楽しませる工夫があちこちに見られて、とても素敵なお店だ。
オリジナルカクテル作りも楽しめる。優秀賞ならメニュー化も
もう少し飲んでいこうと思っていたら、店員さんがメニュー表をもう1枚出してくれて。
そこには、色々なリキュールやシロップの記載が。
なにやら、これらを組み合わせてオリジナルのカクテル作りを楽しめるとのこと。
A、B、Cとそれぞれ分けられた各ブロックからひとつずつ選び、最後にそれらの量配分も選べる。
どんな味のなにを、どれくらい入れるとこういう味になるとか、また見た目にもこだわるなら味だけじゃなくて仕上がりの色合いをも配慮して素材を選ぶ必要があるんだとか。
なるほど面白い。これだけでも結構な種類があるけど、僕らに見せてくれたこのメニューは初めて来る人向けとのこと。
もっとリキュールやシロップの違いが分かるようになってくると、より多くのそれらから組み合わせを選べるんだとか。
ちらっと上級者向けのメニューを見せてもらったけど、僕がその境地へ辿り着ける日は多分来ないだろうと思うくらいには種類が多く、奥が深そうだった。

酔って考えたちょいダサなカクテル名は伏せておく
とはいえ正解はきっとない。何も知らないなりにリキュールやシロップが持つ名前の響きや、なんとなくの想像でオリジナルカクテルを1杯頼んでみる。
選んだ素材とシェイカーを店員さんを店員さんが渡してくれる。オリジナルカクテルは、振って作るところからやらせてもらえるみたいだ。
これが、シェイカーに手の熱が伝わりすぎないように指先で持つとか、振り方やその回数次第でも味が微妙に変わると聞いて、これまた面白い世界だな、と興味を持った。
終電の時間が近づいて他のお客さんはほとんど帰っていく中、ここで白髪パーマの女性店員さんがカクテルの作り方を教えてくれた。
「ちゃんと肘を張って、こう振る。ほら、笑ってんじゃないよ!」
確かにパンチのあるキャラクターで、ゆえにこのお店が多くの人から長く愛される理由が一瞬で分かった気がする。
こんなに素敵な店員さん、こりゃあまた会いたくなる。
聞けば江古田の街で55年続いているという。こんなに大きくて、ミュージアムみたいな見た目で。
外観からもその個性はダダ漏れしてるけど、こんな個性的なお店が駅前で55年も続くなんて、やっぱり江古田はいい街だ。
仕上がったカクテル、黄金色に輝いていて見た目は案外悪くなさそう。
ただ飲んでみると、うーん、まずいとかはもちろんないけど、確かにまとまりはなくて、初心者が作っただろうな、っていう感じの仕上がり。
なるほどカクテル作りの道は奥深い。
聞けば、店内にずらーっと貼られていたカクテル名と人の名前は、江古田コンパでオリジナルカクテル作りが始まってから各年の最優秀カクテルなんだとか。
せっかくだからグランプリに輝いたそれらと、素人の自分が作ったそれの違いを比べてみようと、2024年のグランプリ (確か) である”アフタードライブ”を注文してみた。
僕が作ったカクテルも色合いは悪くないと思ったけど、手元に届いたそれは綺麗な黄金色をしていた。
そして、味のまとまりもしっかりあった。スッと飲みやすくてキリッとする。
なんというかこう、お酒の味わいをスッキリと楽しめるような。まあ上手く言葉にはできないけど、確かすぎる次元の違いは確かに感じ取った。
こんなにも個性的なお店が愛されて長く続く、やっぱり江古田はいい街だ
奥さんが2杯、僕が3杯を飲んだところでお会計。
1時間半くらい居た気がするけど、お会計は6,600円。カクテルが1杯800円、食べ物が500円×2で、あとはチャージ料 (?)と消費税って感じかな。
すごく楽しませてもらって、これくらいのお値段ならお腹いっぱいに食べた2軒目に時々ふらっと寄りたいくらい。
帰り際に、それまで静かに後ろのカウンターでお客さんを見守っていたオーナーさんが、マッチを使って突然にマジックを披露してくれた。
タネも教えてくれたけど、ぼちぼち酔ってた僕はただ驚くだけだった。
そのままマッチ箱をふたつ、お土産に下さったんだけども、そこに書かれたイラストもオーナーさんのオリジナルという手の混みよう。
いやー楽しかったね、ずっと気になってたけど入ってみてよかったね、なんて話しながら帰路に着く、楽しい夜になった。
ハイカラな、だけど居心地のいいお店の雰囲気をただただ楽しむもよし。
名物店員さんとの会話を楽しむもよし。
オリジナルカクテル作りに奮闘してみるもよし。
お酒そのものの味やその楽しさ、奥深さはもちろんのこと、それを含めて全部をまるっと楽しむ”お酒の場”としてもすごく素敵な場所だった。
江古田って、そんなに派手さはない街だけど。それでも一度住んだ人が、街を気に入る理由ってとてもよく分かる。
わざわざ来るような用事はないかもしれないけど、なんだかふらっと来てみたりとか。
その2軒目として江古田コンパ、とってもおすすめ。こういうお店が55年も営業を続ける、江古田ってやっぱりいい街だ。
で、こういう街ってきっと、僕が知らないだけで都内にはもちろん、全国にたくさんあるんだろうな。
下北沢!とか高円寺!とか、そういう派手さのあるところだけが正義じゃなくて。
色んな街の名物的なお店のことをもっと知ってみたい。